ヘルメットの安全性を確保するための「SGマーク」その認証試験の模様を写真と共に解説
様々な規格が存在するバイク用ヘルメットの安全規格
ライダーの頭部を護るヘルメットには様々な安全規格が存在する。現在販売されているヘルメットが取得している最も一般的な規格が「PSC」と「SG」であり、ASTONEヘルメットもこの2つの規格を得て、日本の一般公道で安心して着用することができる。
バイク用ヘルメットの主な安全規格
PSCマーク
日本国内で流通するバイク用ヘルメットに対し、クリアすることが義務付けられている安全基準。国によって定められており、全乗車用ヘルメットに適用される。取得には衝撃吸収性試験、耐貫通試験、あごひも強度試験をなど実施し、基準以上の成績を満たす必要がある。
SGマーク
一般財団法人製品安全協会が定める「SG基準」。取得するためにはヘルメットの衝撃吸収性能、耐貫通性能、保持性(ロールオフ)、あごひもの強度などの試験をクリアする必要がある。万が一ヘルメットの欠陥による事故が発生した場合、最大1億円の賠償責任保険が付帯される。
JIS規格
バイク用ヘルメットのJIS規格は、日本産業規格(JIS)による安全基準で、適合したヘルメットは、一定の安全性を持つ製品として認められる。JIS規格では、SGと同様に衝撃吸収性能、耐貫通性能、視野の確保、
MFJ規格
MFJ公認のレースにエントリーするためには、MFJ公認ヘルメットの着用がマストとなる。SGやJISよりも一段高い安全性能が必要となり、公認を受けたヘルメットには証明となるステッカーが貼られている。
SNELL規格
FIM主催のモータースポーツへの参戦を前提とした安全規格で、非常に厳格な基準として知られている。特に高速度での事故や衝突に耐える性能が重視されている。
一般財団法人 日本車両検査協会「VIA」によるヘルメット試験
一般財団法人 日本車両検査協会VIAは、二輪、四輪マフラーの騒音検査や四輪のアルミホイール、自転車の検査など様々な製品検査を行う機関だ。
多彩な検査機器を有し、中立な立場で公正な試験を実施。消費者が安心してヘルメットを購入し、着用できる環境のために尽力している。
今回ASTONEのカーボンヘルメットを実際にVIAに持ち込み、SG基準に則った試験を依頼した。その実際の試験の模様をご紹介したい。
我々が日常的に使っているヘルメットが一体どんな試験を経て、安全性を持った製品として認可され、販売されているのか? その一端を垣間見ることができた。
人頭モデルのサイズを決める
まずは試験を実施するにあたり、ヘルメットのサイズに合った人頭モデルが選定される。
サイズの計測には専用のゲージが用いられていた。
人頭のサイズは5種類が用意されている。
ヘルメットに求められる性能と保護範囲
言うまでもなく、頭部に装着し衝撃から護るのがヘルメットの役目である。頭部の保護範囲はポイントで定められており、指定ポイントを繋いだ線の部分が帽体とライナーで保護されている必要がある。
人頭模型の各ポイントの目印を合わせる。
それらのポイントをヘルメットに転写する。
ポイント同士を線でつなぐとヘルメットに必要な保護範囲が可視化できる。写真のマーキング線から上は試験範囲で、衝撃吸収性試験と耐貫通性試験
周辺視野試験
ヘルメット装着時に視界が必要なだけ確保されているかを確認する。実際に人が被ってのチェックでは均一な結果は得られないので、視界を視覚化できる治具をヘルメットのアイホールにセットして、試験を行う。
ヘルメットの上下左右に必要な視界があるかどうかが判断される。
ロールオフ試験
転倒など衝撃を受けたの際にヘルメットが脱げないかどうかの「ロールオフ試験」も行われる。
ヘルメット後頭部の下端部にワイヤー付きのフックをかけ、そこに初荷重をかけ、更に落下重りで動的荷重を加えて、人頭模型からヘルメットが外れることが無いか判断される。
衝撃吸収性試験
排気量125cc以上用ヘルメットの場合、センサーを内蔵した人頭模型にヘルメットを装着した状態で一度目は7m/s(秒速7mの速度)で、2度目は5m/sで平面または半球状の鋼製アンビルに向けて落下させ、その衝撃加速度を計測する。
衝撃吸収試験を行う検査機器。
人頭模型にヘルメットを装着し、アゴ紐を締めて固定する。
ヘルメットは見上げる高さまで吊り上げられる。
そこから一気に半球状のアンビルに向けて叩きつけられる。激突した瞬間の写真を見ると、表面の塗装が砕けて飛び散っているのが見える。
人頭模型のセンサーから得られた数値がパソコンに転送され、衝撃吸収性が規定をクリアしているかが判断される。ヘルメットの素材や衝撃吸収ライナによって衝撃の強さや衝撃の加わる時間が変化する。
試験により衝撃を受けた部分は帽体表面が破れ、ペイントの下からカーボンが見える。破損がNGということは決して無く、あくまで衝撃吸収性能の試験となる。
耐貫通試験
ヘルメットに向けて耐貫通ストライカと呼ばれる先端の尖った金属の棒を落下させて、ヘルメットの帽体を貫通しないかどうかをテストする。
指定範囲のうち2〜4ヶ所でテストが行われ、あえてベンチレーション付近など、帽体の弱そうな部分を狙ってテストが行われることが多い。
耐貫通試験を行うテスト機器。耐貫通ストライカをヘルメットに向けて落下させる。
ストライカがヘルメット貫通し、人頭の電極に接すると電気が流れる構造となっており、ストライカ落下後にセンサーが反応しなければ貫通していないと確実に判断することができる。
125cc以上用のヘルメットの場合、3kgのストライカを2mの高さから落として、貫通しないことが検査にパスする条件となる。
ヘルメットに向けてストライカが落下。
帽体に穴が開いているように見えるが、ライナーまで貫通しておらず頭部をしっかり護っている。
保持装置強さ試験
ヘルメットのアゴ紐が転倒時の衝撃に耐えることができるかどうかも試験が行われる。
アゴ紐に瞬間的荷重をかけ、どれだけ伸びたかを計測し、その伸びた数値で耐久性を判断する。中にはリベットが抜けてしまったり、ラチェットバックルが壊れてしまうこともあるそうだ。
ヘルメット試験を行うためのその他の設備
ヘルメットがいかなる環境下においても安全性を確保できるか否かを確認するため、異なる温度で同様の試験が行われる。VIAではそうした設備を備えて試験を行っている。
ヘルメットが高温(50±2 ℃)化に置くために電熱釜。
ヘルメットを浸せき処理するための水槽。ヘルメットを水に沈めるために重りを使用する。
ヘルメットを低温状況下で試験するための機材。
安心できるヘルメット選びの指針となる安全規格
現在、公道で使用するためのバイク用として販売されているヘルメットは、PSCマークの取得が義務付けられている。PSCマークを取得しているということは、今回とほぼ同様の試験を受けて安全性が確認されていることの証となる。
VIAでは、中立な立場で公正かつ正確な試験を実施しており、それがライダーの命を護ることに繋がっている。
バイク用ヘルメットの購入時は、PSCマークをはじめSGやJIS、サーキット走行であればMFJの規格がクリアされていることをしっかりと確認していただきたい。