ヘルメットの素材は何が良い!? 「FRP素材」のヘルメットと「ABS素材」のヘルメット、それぞれのメリット、デメリットをプラスチックの専門家に聞く

バイク用ヘルメットの素材として使われている2大素材「FRP」と「ABS」とは? 

バイクに乗るために欠かせない装備がヘルメットだ。現在、バイク用ヘルメットは国内メーカーだけでなく海外メーカーの製品が広く販売されており、ユーザーの選択範囲は幅広い。

バイク用ヘルメット素材の解説

ヘルメットには安全性だけでなく軽さ、デザイン性などが求められるが、頭部を護る強度を持ちつつ、軽さを実現するため、その素材にはプラスチックが使われている。

ただ、ひと口にプラスチックと言ってもその種類は様々だ。バイク用ヘルメットは一般的にABSもしくはFRPのどちらかが素材として採用されており、それぞれメリット、デメリットを持っている。

ここでは、プラスチックの専門家に伺ったお話を元に、ヘルメットの素材として見た場合、それぞれどのような特徴や優位点があるのかを解説したい。

ヘルメットの素材として理想的条件を満たすFRP 

FRPとは?

FRPは「Fiber(繊維)」「Reinforced(強化)」「Plastics(プラスチック)」のそれぞれの頭文字をとったもので、繊維と樹脂を合わせて一体化した「繊維強化プラスチック」の総称である。

繊維と樹脂を一体化されたものとしては「カーボン」もFRPの一種であり、それぞれ区別するためにガラス繊維をつかったものが「GFRP(G:グラスファイバー)」、カーボンを使ったものが「CFRP(C:カーボンファイバー)」と呼ばれている。

ヘルメットの国内大手メーカーである「Arai」や「SHOEI」は主にFRP素材を採用しており、その他メーカーでは、ABS素材を採用していることが多い。一般的に価格面で見ればFRPの方が高価格帯にあるが、そこにどんな理由があるのだろうか?

FRPの持つ優位点

FRP素材のメリット

  • 丈夫で耐衝撃性に優れる

  • 軽量に造ることができる

  • 強化繊維の選択やプライ数を変えるなど材料設計ができる

  • デザインの自由度が高い

  • ボルト穴などをインサート(一体成型)するのが容易

軽量かつ強度が高い

FRPは非常に強度が高く風力発電機の翼や船舶、戦闘機のパイロットのヘルメットなどの素材として使われている。

FRPの強度が高い理由

FRPが強い理由は、単一の樹脂ではなく、強度や弾性率が高い”繊維”と”プラスチック”の複合材である点にある。

例えば高層ビルを建てる時にコンクリートだけでは強度を保つことはできない。中に鉄筋を入れてコンクリートと鉄の複合材とすることで、はじめてしなりや振動に耐える強度を実現させることができるのだ。

土壁の中に竹材や藁などを入れるもの同様の理由である。

だからこそ、複合材であるFRPは他のプラスチックに比べて曲げ、引っ張り、衝撃といった外乱にも圧倒的な強さを持っているのだ。

割れにくいFRPヘルメット

FRPが想定を超える衝撃を受けて割れた場合、結びついた繊維同士が引き割かれる力に対抗し、割れの広がりを阻止するように働くため、裂けにくくなる。

しかし、繊維の入っていない単一樹脂のABSは想定の衝撃を超えて割れた場合、そこから裂け広がってしまうことが想定されるのだ。

経年劣化や熱にも強いFRP

FRPは鉄や木材のように錆びたり腐食したりすることがないので、40年近く強度劣化を起こさないのもメリットのひとつ。バイク用ヘルメットの多くは素材に関わらず3年での交換が奨励されているが、産業用ヘルメットではFRP製が5年なのに対し、ABS製は3年とされているケースもある。

熱硬化性樹脂なので熱にも強さを持っており、耐水性や耐薬品性にも優れている。

強さが“軽さ”を実現する

ヘルメットの素材とした場合強度が高く安全性を確保しやすいのはもちろん、同じ強度でもABS製よりも薄く造ることができるので、軽量に仕上げることができる。そうした点でも大きなメリットを持っている。

材料選択によって強度を設定できる

FRPは強化繊維の選択や積層する数により、全体だけでなく部分的に強度を持たせることができる。ヘルメットの中でも衝撃を受けやすい箇所の強度を部分的に高めたり、逆にショックを受けた時にあえて潰れることで衝撃を吸収できるようにしたりといった設計が可能だ。これは単一樹脂であるABSには無い大きなメリットだ。

デザインの自由度が高い

FRPは常温、常圧の成形ができるので、高価な金型や設備を用意しなくとも成形が可能。製品の型は生産数に合わせて樹脂型や石膏型、シリコン型などを選択でき、凝った造形などを実現しやすく、デザインの自由度が高いのも特徴だ。

また、ヘルメットのシールドマウント部に金属の雌ネジを埋め込んだりといったインサート加工も容易となる。

ヘルメットの素材として優れたFRPだが一方でデメリットも

高強度で軽量なFRPはヘルメットの素材として様々な優位点を持っている。国内メーカーがFRP素材にこだわるのには、こうした理由があるのだ。一方でデメリットも少なからず存在する。

それがコストの高さにある。手作業とバッグ成形でしか生産できないFRPヘルメットは大量生産には不向きで、価格は高い傾向にある。また、作業者のも問われることになる。

ヘルメットの素材として一般的で最も多く使われてるABSとは?

ABS素材のメリット

  • 大量生産に向いていてコストに優れる
  • 外部からの衝撃に強い
  • 加工や着色しやすい

ABSの名前は原料である「アクリロニトリル(A)」、「ブタジエン(B)」、「スチレン(S)の頭文字に由来する。バイクの純正カウルの多くはABSを素材としており、そうした意味でもライダーには馴染み深い素材だ。

現在、国産、輸入ヘルメットメーカーの多くがABSを素材とした製品をリリースしている。ABSを素材として選ぶ理由はどのようなものなのだろうか。

大量生産に向いており価格が安価

ABSは成形加工し易い熱可塑性樹脂で、ヘルメットの生産には金型が必要になるが、金型さえあれば生産を自動化できるので大量生産に適している。

生産数が多いほど製造コストは下がるので価格を抑えやすいのが特徴だ。

 

ワンポイント解説!

熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂とは?

熱可塑性樹脂とは、熱を加えると柔らかくなる樹脂のこと。熱を加えることで加工が容易になる一方で、高温には弱い。反対に熱を加えても溶融しない樹脂が熱硬化性樹脂と呼ばれ、FRPはそれにあたる。

お菓子に例えると
熱可塑性樹脂=あたためると溶けるチョコレート
熱硬化性樹脂=あたためても変化のないクッキー
と、わかりやすい。

 

耐衝撃性が高い

ABSはプラスチックの中でも高い耐衝撃性を持っており、FRPを除けばヘルメットの素材としての適応性が高い。

加工、着色しやすい

ABSは表面を平滑に仕上げることでツヤを出しやすく、塗装の乗りも良いので、グラフィックの入ったヘルメットの素材として適している。

コストと安全性を両立するABSにはデメリットも

大量生産ならコストが抑えられるし、SG規格など安全基準を十分に満たす強度を得られるABS素材。一方でデメリットも存在する。

FRPに比べて強度が低い

ABSFRP比べると「曲げ」、「引っ張り」、「衝撃」といった外乱に対する強度が劣り、FRPと同じだけの強度を得ようとすると素材が厚くなって重量が重くなってしまう。また、素材に繊維が入っていないので、受けた衝撃によって割れてしまうことも想定される。

デザインの自由度がFRPよりも低い

ABS製ヘルメットの製造には必ず金型が必要となる。細かなデザインや造形を行うと金型のコストや製造コストが増えてしまうので、低コストのメリットを活かせなくなってしまうのである。

ヘルメットの素材としてFRP製、ABS製それぞれ利点がある

ヘルメットの素材として見た場合それぞれのメリットデメリットを一言でいうと

FRP
軽くて非常に丈夫なのでヘルメットの素材としてベストだが、製造に手間がかかるので価格が高い。

ABS
大量生産に適しており価格が安いが、強度や軽さはFRPに劣る。

上記のようになる。

ただし、ABS製であってもSGPSCJISといった規格を取得していれば通常使用での安全性は確保されているし、FRP製ヘルメットのすべてが絶対に安全かといえば決してそうではない。

素材だけでなく自身の好みや予算などを含めて、最適なヘルメットを選ぶことが重要と言えるだろう。

【取材協力】

一般社団法人 強化プラスチック協会
技術担当部長 大熊秀夫

バイク用ヘルメット素材の解説

大手樹脂メーカーに37年勤務。熱硬化性樹脂の開発と成形技術の確立に従事。定年退職後ガソリン計量器メ-カ-に10年間勤務し、地下タンクFRP二重殻タンクの開発を行う。現在は強化プラスチック協会で技術担当部長として活躍。「強化プラスチック・手積成形 1級技能士」の資格を持ち、FRP成形技能テキスト(FRP手積成形)や強化プラスチック誌で執筆を行っている。

一般社団法人 強化プラスチック協会

1955年(昭和30年)4月1日に「強化プラスチックス技術協会」として発足。現在で68年目を数える。

その会員はメーカーや大学、商社、研究機関などで構成されており、個人会員をふくめ170の個人と組織が所属している。

バイク用ヘルメット素材の解説

協会の活動趣旨は、強化プラスチック工業一般に関する生産、技術等の調査、研究及び指導並びに普及等を行うことで、国内産業の発展に尽力することにあり講演、展示会の開催やFRP入門講習会、FRPオンラインセミナーの主催。さらに会報誌や書籍などを編集・発行している。

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